第1限 |
①オリエンテーション(班分け) ②前転~1回ひねりとび の習得 |
(1)整列、出欠点呼(2分)
(2)① グループ分け (3分)
グループは5~8名を1グループとする。 4人では練習の順番待ちの余裕がなさすぎるし、
9名以上では間が空きすぎて緊張感が持続しない。6~7名が適当である。
技の内容によってはグループ内でお互いに補助する場面もでてくるので、身長、体重など
を均質に揃えたグループにしてもよいとも思うが、それほどこだわる必要はない。(ただ
体格差により同レベル体格の補助が必要な場面では、教師側が判断して、適切な組み合わ
せをすることは念頭に入れておくべきである。)
② グループノートについての説明 (3分)
グループノートは毎時間ごとの授業内容と反省を、メンバーが交代して書いていくものとした。
次の授業の前日までに提出し、点検を受ける形式で進めた。
(ノート点検は教員の仕事を増やすものではあるが、生徒と教員の考えのズレをチェックしたり、
健康状況を把握したりすることもできる。)
(3) マットのセッティング (3~5分)
・前述したように、ロングマット1本にショートマット1本を接続して9mの長さを確保する。
(ロングマット2本をセットできるのがベストであるが----)
・助走距離、隣のグループとの間隔などを考慮し、マットの端位置をどこに合わせるかを指示して
おく。同時に安全面からもマットの取手部(耳)をマット下に巻き込んでおくよう指示する。
(最近は耳の出ていないマットも多い。)
(4) 準備運動 (5~8分)
・器械運動の場合、非日常的運動部分が多いため、いわゆるラジオ体操などのような徒手体操のみ
をもって準備運動とするのは不十分である。各種ストレッチに加え、首、手首などのストレッチ
もしておく必要がある。(図①)
(5) 補強運動 (5分)
・一般的な腕立て伏せや腹筋運動に加え、毎時間 倒立静止 を加える。(図2)
※倒立の解説については他の指導書を参照されたい。
・倒立静止は、普通2人1組で、片方が倒立、片方が脚を持って補助するというイメージがあるが、
女子生徒などの特に腕力の劣るものは補助者1人では十分に補助できない場面もあり、3人1組で
の倒立練習を行わせるのがよい。
1人が倒立を行い、2人が振り上げ足を確認して、倒立する者の側面から、膝からふくらはぎあた
りを支える補助の仕方を指導する。(図3)
・筋力のない倒立者では、胸が落ち込み、腰が反り返る苦しい倒立となるため、それを軽く引き上
げる補助をするためにも、足首を持つのではなく、膝からふくらはぎあたりを持って補助するよ
う注意する。
・静止時間は1人5秒くらいから始め、10~20秒へと静止時間を延ばしていく。女子でも10秒程度
は軽くいけるものである。ウォームアップを兼ねて、1人2セットぐらいは行わせてもよい。
・倒立練習終了後、再度 肩、手首、腰などの回旋運動を行って身体調整をするのがよい。
(6) 導入練習 (2~3分)
この導入練習というのは、マット運動へ入る前に、技の捌き方や、技と技とのつなぎの技術を、
イメージトレーニング的に軽く練習する時間帯を設ける この指導案の最も特徴的な部分である。
準備運動、補強運動の後にポイント学習として進める。
今回は、 1回ひねりとび の導入練習 である。
①列間隔を十分にとらせ、笛の合図で一斉にその場でジャンプし、1回(360°)ひねって着地さ
せる。ひねる方向、手の使い方は自由でよい。ひねりきれず、あるいは軸が安定せず、着地時に
よろける者がでてくるが、大体は転倒することなく立つことができる。ただ、転倒者が出てくる
可能性もあるので、半(180°)ひねりから始める、とか、はじめは1列ごとにさせてみるとか
考慮する必要はある。多少のよろけはあっても、この程度の技はほぼ全員できるものである。
2回ほど行わせる。
②次段階として、手の使い方を指導する。この技は最終的には前転からつなげてくるので、前転で
立ち上がりながら、両手を上方に振り上げる動作をイメージして、ひねりを加える練習を行う。
①の段階では、手の勢いを全く使わず手を下げたままひねっていた者(図4)や、手を胸のとこ
ろへもってきてひねっていた者(図5)や、片手は上げて片手は胸に巻きつけてひねっていた者
(図6)、等があったはずである。それを、両手とも上方へ振り上げながらジャンプしてひねる動
作に統一する。といっても実際には、左方向へひねりを加える場合は、両手の振り上げも左上方
向にくるので、感覚としては、真直ぐ上方へ上げる左の手のひらに、右手の甲をぶつけるように
腕を振り込む(図7)ような感覚の腕の使い方をするとよいかと思う。目線も左上方(左手の方)
へ向けてひねりをリードする。腕の使い方を意識して2回ほど行わせる。
③時間の余裕があれば、ひねり終わった後の着地をピタッと止める練習を行う。
着地でよろける者は、ひねりの軸を垂直に意識することが大事であるが、②の段階の練習で、
左方向へひねる場合に左手の振り込みを肩幅をはずして大きく振りまわしてしまうと(図8)
軸がブレることがあるので、左手はあくまで真直ぐに振り上げさせるのが軸を安定させるポイ
ントである。
④次に着地は、膝のバネを使って柔らかく着地する練習を行う。一般に体操競技でよく使われる
着地を止める方法としては(図9)のように両手を軽く前に出し、膝を軽くまげて、腰を少し
低くした状態で1~2秒間静止した後に、ゆっくりと両手を上げながら立ちあがっていく方法
をとる。(図10)さらに着地足を、はじめから揃えたままでは安定が悪いので(もちろんピタ
ッと足を閉じて着地もピタッと止まれば理想であるが)、(図9)の着地段階では(図11)の
ように肩幅に足を平行に置いて着地の重心を安定させ、(図10)のように立ち上がりながら、
ゆっくり両足の踵を閉じていく(図12)といったテクニックもよく使われる。
このようなテクニックも入れて、着地を止める意識を持たせて2~3回程度行わせるのもよい。
(7) 本練習 (15~20分)
いよいよマットを使った練習に入る。といってもここでいきなり前転や後転の説明に入ったので
は、生徒も「さあ 動くぞ!」といった機先をそがれるので、私の場合は、いつも以下の運動の
中から時間考慮しながら3~5種ほどを選択して、ウォームアップ運動とでもいうべき体操的なジ
ャンプ、ステップ、パワーアップをねらった動きを 行うようにしていた。
A:ウォームアップ運動
・以下の各運動はマット上を一定方向に行った後、マットの横を通って元の位置へ戻り、座って待
機しているものとする。(図13)下記①~⑦までの全ては時間の都合上実施できないが、例えば
いつも①~③~⑤だけはアップ代わりに行っていると、全体のリズミカルな流れができてきて、
笛を吹かなくても生徒達は適当な間隔を置きながら運動を進めていくことができるようになって
くる。
①後向きウェーデルン切返しジャンプ
・マットの端で後向きに立ち、マット上をジグザグにジャンプしながら後進していく(図14)。
スキーのウェーデルンを後向きで行う感覚である。
・足首、ふくらはぎ、膝、腰等の筋、関節のウォームアップ、体全体の締めなどの感覚を養う。
②前向きウェーデルン切返しジャンプ
・①を前向きで行うものである。①よりも切返しを細かく速くすればスピードに乗って行ける。体
重移動が①よりも難しく、腰への負担が少しあるので注意を要する。
③横向き開脚切返しジャンプ(左右)(女子向き)
・マットの端で足を肩幅の1.5倍ほど開いて横向きとなり、笛の合図で、できるだけ開脚のまま(脚
を閉じることなく)左右交互に体重移動しながらジャンプ横進していく。(図15) 脚を閉じて
しまうと単なるサイドステップになるので、(図15)でいえば、左足の着地位置へ開脚姿勢を崩
すことなく、切返して右足を着地しながら進む形となる。
・左右各方向に1本ずつ行う。
・股関節の緊張感を感じ取り、片足交互キックではあるが全身のバネで跳んでいる感覚をつかむ。
④抱え込みジャンプによる前進(男女共通)
・両腕の下から上への振込みを使いながら、両足ジャンプしながら前進する。(図16)
・7~10回のジャンプで、マットの端から端までを進む。腕の振り上げとジャンプするタイミング
を合わせたのち、膝を胸に抱え込むところまでしっかり行う。
・正面を向いたままの前進が難しければ、ワオキツネザルのように少し斜めを向くとやりやすい。
また、その場で抱え込みジャンプを7~10回跳んだ後、ランニングダッシュに代替えしてもよい。
⑤1・2・3の1回ひねりジャンプ(男女共通必修)
・この運動は導入練習で行った1回ひねりとびを 3歩の助走から行わせるものである。軽い助走
の前方への勢いを上方へ変えながらひねるが、強い勢いをつけてしまうと着地取りが難しいので、
はじめは歩くようにして、右→左→両足踏み切りジャンプ1回ひねり→着地決め というように
練習させる。
・9mのマットでも3回は実施できる。必ずイチ・ニッ、サンの3(サン)の時は両足踏切りのジ
ャンプであることを確認しないと、例えば、右~左~右足で踏み切って左膝を上げたまま フィ
ギアスケートのジャンプのように行うものがでてくるので注意を要する。(片膝を上げながらの
ひねりは腕の使い方が違うので、ここでは取り上げない。)
・その場ひねりで安定した着地を着地をしていた者が、この軽い歩き(助走)を入れるだけで、か
なりよろける者がでてくる。両腕を振り上げる方向、軸の安定、着地の決め----などを意識して行
わせる。
⑥横向き伏臥姿勢とび横移動(左右)(男女共通)
・マットに対し、(図17)のように伏臥姿勢で横向きとなり、肩・腕のパワーと腰の反動を合わせ
て、一気に左(または右)方向へ跳びながら進んでいく。両足を肩幅に開いておくことで、爪先
での微妙な床プッシュも使いやすい。
・腰の締め、全身のバネ、上体のパワーを養うのによい。
・笛の合図で3~4m間隔でスタートさせる。左右両方向の跳びを行わせる。
⑦ウサギ跳び(男子向き)
・体操選手がアップでよく行う 跳ね起こしの練習である。床を突き放す、体を締める等、体の
バネの養成に良い。ただし腰痛に注意。
・(図18-1)のように膝と腰を曲げたままの状態で、前方50㎝程の位置へ水泳の飛び込みを軽
くするように跳んで両手を付き、両手がついた瞬間には両足は(図18-2)のように空中にあり、
すぐに手の押しと体の反動を使って、手のあった位置へ足を振り込み、(図18-1)の姿勢に戻す
------というように繰り返しながら前進していく技である。
(第1段階)
・手-足-手-足―手―足と交互にマットにつきながら前進していくわけだが、はじめの段階では、
図18のような腰の反りは使わず(見せないで)、まさにウサギがヒョコヒョコ前進しているよう
なイメージで、7~9回連続できれば良しとする。
(第2段階)
・前段階よりも、膝を伸ばし、腰を伸ばし、反りからの反動を使った跳ね起こしへと発展させ、ス
ケールを徐々に大きくしていく。図18の動きに少しでも近づける。
(第3段階)
・前進するウサギ跳びができてくれば、これを後ろ向きで、後進しながら行ってみる。男子のほ
とんどは、膝・腰を曲げた状態なら、授業レベルでも何とかこなすものである。
・ポイントとしては、前進の時には手の位置へ足を振り込むイメージで行ったのを、逆に足の位置
へ手をずらすように下げる感覚で、マットをプッシュしながら足を跳ね上げていくとよい。
・これを膝を伸ばし、反り身を効かした姿勢で行わせるには10~12時間程度の授業時数では無理か
と思われるが、能力の高い何人かはできるであろう。
※この様な様なウサギ跳びのような動きは、技として
は特に取り上げられてはいなが、いわゆる体を操る
(体操)の動きとしては面白くもあり、生徒の敏捷性や
巧緻性を見るには適した運動であると思う。
上記①~⑦の動きを2~3種抽出して、マットを転がる
前にウォームアップ的に実施し、次へと進める。
※特に女生徒を対象として、ダンス的な動きやステップを組み入れて練習させる場合、①~⑦の動き
以外に、以下のような動きも取り入れていくのもよいが、ここでの開設は省かせていただく。
a.脚の前振り上げ、横振り上げをしながらの前進歩行
b.片足軸に360度ターンをしながらの前進
c.サイドステップから脚振り上げジャンプひねり(360°)しながらの前進
d.前後開脚による大ジャンプ(または鹿ジャンプ)の連続
e.クラシックバレエの基礎的運動からの抜粋練習(手や指のしなやかな使い方も含めて) 等
B:前転~ 開脚ジャンプ~ 前転~ 1回ひねりとび(10~15分)
・この時間のメイン課題である。
①ここからマット上での回転運動が入ってくるので、両掌を後頭部に当てて、
首の前屈ストレッチをその場でゆっくり行わせる。
②とりあえず、ゆっくりと 前転 を4回行わせる。細かいアドバイスは抜きにして、とりあえずや
らせてみる。
・次のような生徒がでてくると思うが、何とか回転して起きてくれば良しとして、そこで止まらず、
次の課題の中で徐々に前転の修正を行えばよいと思う。
*肥満傾向の生徒で、足裏から立てないで、片足の甲を着くようにして起き上がろうとするもの。
*頭が手の間に真直ぐ入らず(ひねるように入り)、柔道の前方回転受け身のように回転する者.
*起き上がるときにマットに手をついて、後方へプッシュしないと起き上がれない者 等。
③ 理想の前転について簡単に説明 し、再度ゆっくり連続で4回行わせる。
(これについては解説書が多いので他の文献を参照されたし)
・一旦適当なマットの周りに集合させ、理想の前転とはどういうイメージを持つべきなのかを説明する。
・手の付き方/頭の入れ方、頭のどの部分がはじめにマットに着くのか/けり足/膝の伸ばし/つま先
への意識/美しさへの意識/スローな前半からスピード回転の後半/
立ち上がり方----などがポイントとして上げられるが、ここでは理想を追求して何度も行わせることを
せず、ポイントのみチェックして次へと進める。(次からの連続技への発展課題のなかで、何度も前
転を行うので、前転のみをさせることを避ける。)
④ 前転からの垂直ジャンプ (3回連続=1~2セット)
・次段階として、前転をして起き上がる時に直上への跳び上がりジャンプを加え、ジャンプをして下り
てきたら再び膝を曲げながら次の前転へ移行していく。
・理想の前転をイメージしながら、前転から立ち上がる直前には(図19)のように、両手を体の前に置
いて、その前に置いた両手を真直ぐ上方へ振り上げながら、思い切ってジャンプさせる。この手の振
込みが次段階への重要なファクターとなるので十分意識させる。
・流れがよければ1セット、悪ければ2セット行う。
⑤ 前転からの開脚ジャンプ (3回連続=1~2セット)
・さらにスケールの大きいジャンプを習得するために、開脚動作を入れさせる。
・女子生徒に「開脚ジャンプをしなさい。」というと、必ず(図20)のように、左右にチョコンと足を
開いたような姿勢をとるが、ここでは(図21)のように、脚を斜め前方へ投げ出し、脚位置が床と水
平になるようなダイナミックな開脚ジャンプを目標とする。(安全面からも、実施の前に少し開脚の
柔軟運動をするのがよい。)
・しっかりした腕の上方への振り上げ-------上体はあまり前屈せず、意識としては上体はほぼ真直ぐの
ままで、ジャンプの頂点ではつま先に手が触れるくらいの柔軟性が入ってくる。
・着地時に腰が入るような姿勢になることがあるので、膝を曲げた柔らかい着地を心掛けるよう注意を
しておく必要がある。
・これも理想を追いかけるとキリがないので、1~2セットを理想像を意識させて行わせる程度で次に進む。
⑥ 前転からの1回ひねりジャンプ (3回連続)
・④⑤を通して前転からのジャンプ引上げ(腕の振り上げ)がある程度できた段階で、この 前転か
らのジャンプ1回ひねり へと入る。
・すでに 導入練習 で腕の振り込み方、ひねりの感覚、着地感覚は経験しているので、前転からの
連続はスムーズに移行していくはずである。
・前転の勢いによってジャンプの方向が斜め前方に行き過ぎると、着地でバランスを崩すことが多い
ので、ここは各自の感覚で、どの方向へ腕を振り上げると軸がブレずに着地がピタッと決まるかを
試行させていく必要がある。
・安定してうまく3回連続していくことは大変難しい。初めは1回ごとにまず着地をピタッと決めてか
ら次の前転に移行していくという感覚で行わせる。
⑦ 前転~ 開脚ジャンプ~ 前転~ 1回ひねりとび(2~3セット程度の実施)
・本時の総仕上げとしての連続技である。
・笛の合図で、各列1人ずつ 丁寧に行わせる。
・美しい前転のイメージ、ダイナミックな開脚ジャンプ、安定した1回ひねり~吸い込まれるような
着地のポーズへと 途切れない流れの中で、頭の中で次々とイメージを切り替えていかせる。
・ここで少し注意しなければならないのは、特に男子生徒の場合、開脚ジャンプから次の前転に移行
する時、跳び込み前転のように捌く者がでてくる。流れとして、理想的にはそれでよいわけである
が、勢いがつきすぎてしまったり、流れが途切れてしまったりする場合があるので、この時点では
無理に跳び込もうとせず、自分の能力に応じた柔らかな前転へ移行するよう注意をしておく。
・前転という左右軸回転~ジャンプ(垂直方向の動き)に縦軸ひねり を加えるという流れの学習を
してこの時間を終了する。
(8)マットの片付け、整理運動(3~5分)
第2限 |
倒立前転~1歩踏み出して 手をつかない前転~ ~足交叉跳び ~方向転換 ~後転 |
(1)グループ毎にマットのセッティング(2分)
(2)整列、出欠点呼、準備運動、補強運動(7~10分)
(3) 導入練習 (9~12分)
① 倒立~前転 (4~5分)
・補強運動の後、3人一組で倒立の練習を行う。本時は倒立静止の後、元の立位へ戻さず、そのまま
前転へもっていく練習を3~4回行う。
・マット上に他の3人組と接触しないよう位置取りさせ(9mのマットなら3組できる)、前回同様の
倒立練習(立位に戻す)を1回ずつ行う。
・2回目には、2~5秒の静止の後、補助者のリードで前転までもっていかせる。笛の合図で一斉に行
うのもよいと思われる。
・倒立から前転への移行は イ倒立から胸を吊り上げる様にして重心を上げ、胸部を前方向に移行し
ていく方法 とか ロ肩を前に出す動きを意識的に行い、前方への勢いをコントロールする方法
などがあるが、〔(図22)のように肩だけ出すと手首に負担が来るため、指先を外へ向けるように
しながら肩を出すわけであるが、授業ではここまで捌けないため〕生徒はそのような筋コントロー
ルはなかなかできないため、補助者によって、ほんの少し斜め前方に倒してやることによって、ス
ムーズな前転に移行できる。倒立者は補助者が前方へリードしてくれる瞬間に、頭を手と手の間の
少し前に屈曲して入れていく。後頭部がはじめにマットに触れる。早く前転に行きたい生徒は補助
者のリードを待たずに、手と手の間の真下へ グシャッとへちゃげるように頭を突っ込む者がでて
くるので、あくまで前に倒れる勢いを利用しながら前転へ移行していくんだという意識を持たせる。(補助付きで、だいたい2~4回の練習を行う。)
・できてくれば、補助者は倒立静止を瞬時倒立にかえていく。なかなか10~15時間の授業で、自分の
力で倒立を静止させるところまでもっていけないので、倒立姿勢を経過したところから前転へもっ
ていかせる為の練習として、瞬時静止の補助をさせる。これは倒立に決めたと思った瞬間、前へリー
ドの補助を行う。
流れができてくれば、万が一のこともあるので、補助者はつけたままで、一人で出来そうな者には
チャレンジさせてみる。(女生徒では半数程度しかこの段階では自力で行けないであろう。)
・倒立への捌きとして、熟練者的動きを紹介したい。
「倒立するぞ!」といってはじめると、普通は(図23)のように両手を上げた状態から前に倒して
いくスタイルが一般的だが、初心者は両手を上げた時点で肘が曲がり、胸が落ちるという姿勢にな
りやすい。またこの方式では意識が上体の倒しに重きが置かれ、蹴り足も、振り上げ足も遅れると
いう姿が少なからずある。
・競技経験者がよく使う動きとしては、はじめから腕はダラリと下ろしておき、(図24)
のように、上体を前倒ししながら、振り子のように前に手を出す方式を使う。この方式であれば初
めから肘は曲がりにくいし、胸の吊り上げもはじめから意識することができる。ただし前倒しのス
ピードをあまり利用できないので、振り上げ足とけり足を十分に効かせないと元へ戻ってしまう。
・(図23)はシロオト的、(図24)はクロオト的捌きともいえる。あくまで参考である。
・倒立~前転の課題も一度の試みで出来る者もいれば、倒立で潰れてしまう者も出てくるので、とり
あえず3~4回試行して、次時で再び練習することとして、次の課題へ移っていく。
② 足交叉とびからの方向転換 (3~4分)
・技と技のつなぎ部分としての方向転換の練習である。
・前方系の技から後方系の技への移行、また進行方向を変化させる時につかう 捌きの一つである。
(第1段階)
・まず、足を前後に開いた体勢をとる(図25)。右左どちらの足が前でもよいが、一般的に右利き
の者は右足を後ろにしておいた方がやりやすいようである。次の技への連携が感覚的におかしい
と思えば、足の位置を逆にすればよい。
・両手を下に下ろしたその姿勢から、両手を横から上に上げながら、前足を軸に背中側へ180度回転
し(つまり左足が前ならば、左足を軸に右方向に回転し)、両手を上に上げた状態で、前足(左足)
に後足(右足)を引きつけながら逆方向に向きを変える。(図26)
・やってみれば単純な動きであり、2~3回もやれば全員できるはずである。前向きから後向きになっ
たわけである。
(第2段階)
・この動きに、足交叉跳びをプラスした練習へ移る。
・まず同じように足を前後に軽く開いた体勢をとらせる。
・次に、サッカーでいうバイシクルキック、空手でいう二段蹴りの動作を行う。つま
り後足を体の前方へ振り上げながら、残った足で床を蹴って、空中で足を交叉するように振り上げ、
もとの体勢に着地する。(図27)
・腕の振りは自然な感じにまかせればよい。
・これも2~3回行えばできるであろう。イメージとしては空手の蹴りやバイシクルキックの力強さよ
りも、動きの滑らかさ、柔軟さ、身軽さで捌き------理想的には後で振り上げる足が額に着くくらい
の柔軟性、つま先まで意識した線の美しさ、ジャンプの高さなどを要求する。
(第3段階)
・第2段階の動きに、第1段階で練習した動きを連動させる。
・つまり、前後に軽く足を開いた姿勢から足交叉跳び、着地後直ちに180度方向転換である。
・笛の合図で一斉に、「構えて-----ピッ-----①(後足振り上げ)-----②(前足振り上げ)-----
③(着地=後足)④(着地=前足)-----⑤方向転換」というような流れになる。
(4) 本 練 習 (15~20分)各班、各マットの列に配置
①ウォームアップ運動(3~4種):前掲した中から3~4種を実施する。
②前転~ 開脚ジャンプ (3回連続=1セット)
・前回の理想像についてイメージさせること。
③前転~ 1回ひねりとび(3回連続=2セット)
・着地を決める(止める)こと。ひねりの軸の安定と腕の使い方のイメージを確認。
④前転~ 開脚ジャンプ~ 前転~ 1回ひねりとび(2セット)
・流れが途切れないように、動きをイメージさせる。ひねった後の着地決め。
⑤ ゆっくりと後転の連続 (4回連続2セット)
・後転は初めて出てくる技である。首の前屈柔軟運動をもう一度よく行ってからこの課題に入る。
・後転の説明は他の指導書にも詳しいので省く。
特に回転前半の後頭部がマットに着く時点での首への負担がくるため、以下のポイント注意。
(しゃがんだ体勢から実施せよ-----立ち姿勢から勢いをつけようとする者がいる為)
(首の前屈-----尻→背中→後頭部 と入る際には顎を引いておくこと)
(手の構え方-----耳横に御盆を乗せる様に)------等の注意ポイントを認識させる。
・上記のアドバイスのあと、ゆっくりやらせてみる。首に負担がかかりそうなら中止してもよし
-----などの注意をして無理しなくてよい。
・何度か試すうちに、首への負担も慣れては来るが、首を横へ傾けて斜めに回転する者や立ち上
がれず正座する者 等が出てくると思うが、斜め回転にしても 何とか1回転していればこの
時点では良しとする。
・首または背中の柔軟性がなく、後半の回転へ持ち込めない者がいた場合は少々難題である。
腕のパワーのある者は後転倒立気味に捌く場合もある。パワーの無い者でも回転後半で曲げて
いる膝を伸ばすようにして勢いをつけたり、あえて開脚させるなどするとできる場合もある。
がしかしそれでもきつい場合は補習的に個別指導した方がよいと思われる。
・連続での後転ができなくても、1回ずつ ゆっくりでも、少々ゆがんでいても、回転している
ようであれば次へ進めていく。
⑥ 手を着かない前転 (3~4分)
・完璧な表現をすれば、「手のひらはマットにつけない前転」と表現すべきか。
・「手を着かずに前転しよう!」と言うと、生徒(特に女生徒)は驚きの声を上げる。
さらに示範してみたりすると、もっと「エー」、という声を上げるが、要領が分かれば簡単に
できる。
・柔道の前方回転受け身ができる者は簡単にできる。
・適当なマット周辺に生徒を集合させ、以下の要領で説明(または示範)する。
1:手を着かないといっても、手のひらを着かないだけであって、いきなり頭から突っ込むわけ
ではない。
2:足を前後に開き、前転にいく体勢をとる(図28)。後々のこともあるので、ここでは足を前後
に開き、普通の前転にいく時より、足で床(マット)を少し勢いをつけて蹴り出す心構えをする。
3:手は両手の甲が向き合うように内側にひねって、小指を前方へ向ける。肘を少し吊り上げるよ
うにして、手―肘―胸(背)―腹(腰)が大きな円を描くようにセットする。(図29)
4:前足でしっかり前方に 床(マット)を蹴って(押し出して)、小指―肘―後頭部―背中―腰
の順に接地していくよう 大きな前転をイメージする。
5:小指はマットに着くというより触れる程度であって、触れた瞬間には回転に入っている。
6:やってみれば、何ということなくできるであろう。ただ、女生徒で、足を前後に開かずに構え
た場合は勢いがつかずに、手のひらを内側横向きに着いてしまう者が出てくるので(図30)
注意を要す。ここでは手の甲を向かい合わせにするようにして、小指から入ることを強調する。
7:回転後半の立ち上がりも、足を前後に開いた状態で立ち上がること。前転に行く前の構えが
左足が前であれば、立ち上がりも左足を前のまま立ち上がる。ここは意識していないとすぐ
に足が揃ってしまうので注意を要す。
8:時間が許せば、連続で3~4回手を着かない前転で流せるようにする。
⑦ 手を着かない前転~ 足交叉とび~ 180度方向転換~ 後転 (5~7分)
・手を着かない前転から、導入練習で行った 足交叉とび からの方向転換を行い、ゆっくりと
後転につなげる流れの練習である。各部分の動きが7割もできておれば問題なく流れてくれる
と思う。
・連続する上での細かな意識点をあげると、
1:まず、マットの端で 足を前後に開いたスタンディングポジションをとる。
2:両手の甲を内側に向けるようにして、けり足(前足)を効かして小指から前転に入る。
3:回転の後半に足を前後に開くことを意識していないと(無意識に回転すると)両足を揃えて
立ち上がってしまうので要注意。
4:足を前後に開いた状態で立ち上がっていくが、完全に立ち上がる前に-----つまり立ち上がり
の勢いを利用して足交叉とびに入ること。立ち上がりつつ二段蹴りに入っていくという感覚
である。
5:交叉とびにスケールの大きさを出すためには、前転から立ち上がりつつ、両腕の下から上へ
の振り上げを利用する。つまり両手を上方に振り上げつつ床(マット)を蹴って足を交叉す
るという、少々バランス感覚の悪いジャンプになるが、自然な腕の振り上げを利用すればよ
いのであって、かえって腕を下ろしたままのジャンプは窮屈にみえるし、スケールも小さい。
6:交叉とびで足が下りた後は、導入練習で行った通りに方向転換して、両手を上げた状態で180
度向きが変わる。
7:両手を上げた直立状態から、そのまましゃがみ込んで後転に入る。両手を上げておくことは、
後転への手の動きの先取りができるという利点もあるし、全体の流れが大きくも見える。
8:他の生徒の動きを見ながら、同じ流れをしていても、バランスの良い動き、流れのスムーズな
動き、スケールの大きな動きは----は、どのように技を捌いているかを見ることで勉強になる
のである。
9:全体の動きを見て2回ほど流してやらせる。
⑧ 倒立前転~ ⑦の動き (5~7分)(図31)
・⑦の動きの前に、倒立前転を追加する動きである。
・倒立前転は導入練習で行った通りの手順で、補助者を2人つけて行わせる。いきな
り1人でやれと言っても、背中から倒れたり、あるいは足がなかなか振り上がらず、
何度もやり直しをする者が出てくるので、必ず両サイドに2名の補助者をつけて行
わせる。
・倒立前転から次の 手を着かない前転 への移行ポイントとして、まず倒立前転からの立ち上が
りでしっかり直立姿勢をとること。倒立前転~直立姿勢~1歩踏み出して手を着かない前転~-----
--というようにメリハリをつけていく。倒立前転のあと、直立姿勢を1秒くらい決める程度の気持
ちでもよい。
・本時のメインの連続技のため、時間の許す範囲で行わせる。
・⑦を2セット、⑧を2セットほど流す時間がとれれば十分と思う。
(4)マットの片付け、整理運動(3~5分)
神戸市 北区